工房の紹介
上主和竿工房アドバイザー・釣りライター
庄山 晃
上主和竿工房を紹介しよう。和竿製造者の上主和孝(かみぬし・かずたか)さんは1950年に東京は練馬で生まれた。物心つく頃から近所の大人たちに連れられ、水郷方面の鮒釣りに通った根っからの釣り好き少年。長じて船釣りへと転向するや、釣り仲間の人脈を広げつつ、沖釣り全般をこなし現在に至る。とりわけ繊細な魚信(あたり)を察知するのが大前提のハゼやシロギス釣りを得意としてきた。
いわゆる市販品の竿では飽き足らず、サラリーマン稼業の傍ら、竿かづ和竿工房が指導した和竿作りの講習会に参加し、和竿作りのイロハを学ぶ。以後30余年、横浜竿の汐よしさんを始め近郊の和竿師、関釣具店や浜川、柴又の安兵衛さん等、和竿の素材販売店にも足繫く通っては専門的な知識や技術を集積してきた。
何よりも特筆されるのが、各種の沖釣りを自ら実践してみて、竿の長さや太さの使い勝手、そして竿の調子と呼ぶ感度、強度、弾力の答えを自らの竿作りに隈なく反映させている点だ。より理想的な素材を入手すべく20年前からは、毎年、九州は宮崎方面に出掛けてはホテイ竹を、房総方面に通っては丸節竹を採集する徹底ぶりだ。
竹工芸の技と漆工芸の技が合体した伝統工芸の華──和竿。然るに漆工芸の美術的な価値が云々される一面もある。いわゆる和竿の繋ぎの部分、口塗りと呼ぶ部分には研ぎ出し等、漆工芸の様々な変わり塗りの技法が応用されたりもして華やかさを競う。しかし、上主竿は竹工芸にあっては機能を最優先、漆工芸にあっては防水を最優先。漆塗りの基本は胴塗りでは竹の地肌を生かす透き漆で仕上げて、口塗りやガイドの糸巻きなども真っ黒な呂色(ろいろ)一辺倒。
そのシンプルさにこだわりつつも、呂色漆を幾重にも塗り重ねては、エポキシ樹脂を使ったような厚みさえ感じさせる手抜きの無さが、その耐久性と頑丈さを物語っている。
上主さんは先年、サラリーマンを定年退職したのを契機に、上主和竿工房として起業化を決意し、当ホームページの写真カタログに列記した14種、24タイプをベースにした和竿の受注製作による販売に至った。実釣に裏打ちされた実践的な上主竿は、抑制された美の中にも、日本刀のような切れ味が真骨頂と言えるだろう。