和竿の魅力とは

上主和竿工房アドバイザー・釣りライター
 庄山 晃

 和竿には工業製品には決して無い、竹や漆と言う天然素材ならではの独自の味わいがある。竹は同じように見えても、育った環境によって繊維の入り方は1本ずつがそれぞれに違う。漆もまた、その日の温度や湿度によって、乾き具合が変わる。それぞれ生き物のような個性を持つ天然の素材をよく把握した上で、和竿の作り手が獲得した技の数々を駆使し、心を込めて呆れるほど幾重にも手当する事で、自ずと温もりを持つ存在となってしまう。
 例えば、竿を握る、いわゆる手元の部分も自分の手の平の大きさに合致させる事も出来るし、唯一無二の天然繊維で作られる弾力と感度の取捨選択はもちろん、長さや強度と言った使い勝手も自分好み調子を反映させて、いわば世界にたった一つの自分のための道具となる。

 釣り竿は腕の延長として機能すべきモノと言われている。つまり、ごく小さな魚信でも敏感に察知しては、俊敏に合わせを入れて魚をハリ掛かりさせる、腕にも勝る道具。更には、柔軟な弾力を発揮して掛けた魚を逃さない、これまた腕にも勝る道具。和竿こそは、それらに相応しい働きをする道具、つまり腕の延長となって働いてくれる精密機器だ。
 釣りの楽しみ方も様々ある。しかし、万人に共通する歓びと言えば、魚がハリに掛かった瞬間の、あの電撃的なビビンの感触ではあるまいか。或いはまた、魚が反転してハリから逃れようと、縦横無尽に抵抗する息詰まるばかりの、夢見心地のあの興奮の時間ではあるまいか。
 魚がその一命をかけて伝える体動のすべては、釣り人からすればズキーンと全身を貫く快感そのもの。実人生ではなかなか味わえない幸福感の絶頂、予想を遥かに超える筋書きのない熱狂ドラマの主人公となるのが釣り。魚との千載一遇の出会いを確実にキャッチしては、竹ならではの粘り腰を発揮して取りこぼしなく、釣り味を損なうことなく堪能させてくれる強い味方、それこそが和竿ではないだろうか。

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