ブログ「工房だより」
●和竿と漆
2018年08月06日
和竿には漆を塗ります。漆は酸やアルカリに強く、また完全に硬化すると刃物も通さない硬さになります。熱にも強く、後の火入れが可能です。竿を保護するという機能的な面から、また落ち着いた質感を有するという美的な面からも、漆は和竿の塗料として最高のものだと思います。
漆は少量でよく伸び、また作業中に乾燥が進まないので非常に塗りやすい塗料です。ただ乾燥に湿気と温度が必要で、そのため木材で室(むろ)を作り、その中で乾燥させねばなりません。室に水を撒いて湿気を保ち、気温の低い時期は室を温めます。漆は1日で乾燥しますが、次の作業に移れるという意味での乾燥で、完全な乾燥ではありません。
船竿の漆塗りは、①すげ口塗り、②胴塗り、③ガイド塗りの順に行います。
竿の継ぎ箇所で、差し込まれる部分をすげ口と言います。そのすげ口には補強のため絹糸が巻かれており、その上に黒呂色漆を5〜6回塗ります。これですげ口は完全に保護されます。
次に、胴塗りに入ります。竹肌に直接漆をかけ竹を保護します。私はこの塗りには半透明の木地呂漆を使ってます。この胴塗りには「刷毛塗り」と「拭き取り塗り」という2つの塗り方があります。当ホームページ製品見本のカワハギ竿を見てください。上の竿が刷毛塗り、下の竿が拭き取り塗りで仕上げたものです。
刷毛塗りは刷毛で塗ってそのまま乾燥させます。これを3回繰り返します。かなりの厚塗りになりますので赤味の射した濃い茶色に仕上がります。時間が経つと赤味は消え、その後に濃い茶色からほどよい茶色になって落ち着きます。
拭き取り塗りは、刷毛で塗った漆を紙や布で拭き取り、薄い塗膜だけを残して乾燥させます。これを10回くらい繰り返します。塗膜が厚くならないので半透明の茶色に仕上がります。時間が経つと透明度が増し、竹肌の色が出てきて黄色味を帯びて落ち着きます。
最後にガイド塗りです。ガイドを固定した絹糸にすげ口塗りと同じ漆を塗ります。この部分の塗りはすげ口塗りより回数を重ねないと仕上がりません。
また同時に芽打ちといって、竹の枝の生えていた部分に漆を塗ります。布袋竹は栗の実型、丸節竹はドングリ型に勢いのある筆勢で打たなければならないのですが、なかなか難しいです。